THE APARTMENT
邦題 「アパートの鍵貸します」 (1960)
【クレジット】
監督 ビリー・ワイルダー
出演 ジャック・レモン
シャーリー・マクレーン
【作品の背景】
会社で出世するために、上司に自分のアパートの部屋を
ホテル代わりに貸し出す、というなんとも奇抜な設定の
ラブコメディー映画。
コメディーの王様であるビリー・ワイルダー監督が
その生涯の絶頂期において製作したペーソス溢れる
傑作ラブ・コメディー映画である。
【解説 2015年】
この作品は今は亡き淀川長治さんと水野晴郎さんが同じように「この映画を観てつまらなかったという人はいないんじゃないだろうか。」「この映画を観て時間を返してくれと思う人はいないんじゃないか。」「観ていると心が温まりとても良い気持ちになる。」と言わしめた作品です。
原題のタイトルは「THE APARTMENT」ですが「アパートの鍵貸します」は邦訳としては素晴らしいの一言。いまどき風なら「レンタル・アパート」なんてチープなタイトルが付きそうで怖いですね。
タイトルも秀逸ですが、それ以上に設定が面白い。出世の為に自分のアパートを貸すという涙ぐましい努力に脱帽ですね。あらすじを知らなければ自分の出世の為に部屋を貸しながら、そのマネージメントにドタバタするというドラマ映画と勘違いしそうな設定ですね。
そしてこの作品の魅力の一つは何といってもジャック・レモンの演技力ですね。レモンは善い人なんだけど報われないと言う3枚目の役柄を見事に演じていたと思います。主役としての存在感も圧巻で哀愁感が漂う中、コミカルさを入り混ぜてペーソス溢れる雰囲気を作り出していた様に思います。
マクレーンは若いのですが彼女は恋する可憐な乙女を演じるので、個人的には演技は全く必要ないかなと思います。ただ素の自分を表現すれば、それが最高の演技になるという感じですね。自殺未遂をした後にそれでもまだ彼のことが好きなのと言うシーンはレモンだけでなく見ているこちらまで絶望の気持ちにさせる様な演技でした。そしてラストの告白するレモンに対して見せるあの顔はたまりませんね。ズルいの一言です。
ワイルダーらしく小ネタも素晴らしく、三谷幸喜がドラマ「今夜、宇宙の片隅で」で真似をしたテニスラケットでパスタの場面やピストル自殺と一瞬思わせるシャンパンの場面等、コメディー作品ではないですが随所にワイルダー節が見ることができて愉しめました。
(鼻歌混じりで最高にノリノリ。戦後アメリカ最高の喜劇俳優の面目躍如!)
そして、割れた鏡のコンパクトはレモンがマクレーンに知られることなく彼女が部長の浮気相手であるという事を暗に知るという複雑なシーンを一挙に解決した素晴らしい小道具であったと思います。
そして最後のどんでん返しのラストシーン。「部長は?」と聞くレモンに対してマクレーンはただ「毎年クリスマスにケーキを贈るわ。」と言ってカードゲームを続けるだけ。しかもレモンが告白しているのに「カードを配って」と命令して彼の告白はお構いなし。
お互い話しかけてるが一方通行。会話がまったく噛み合わず成立していない。キスも甘いシーンも一切ない。それでいて最高にハッピーエンドのシーンになるのだから、困ったもの。最後のシーンを観終わった後になんとも言えない朗らかな気持ちの余韻が残る、最高に素晴らしい作品ですね。
「いや~映画ってホントにいいもんですね~」
【古い解説 2004年頃】
私が大・大・大好きな映画。
ジャックレモンの演技は非凡であるし、
マクレーンの美貌は溜め息ものである。
そしてなんといってもワイルダーの脚本。
細部にまで手が込んでおり、
さすがコメディーの神様だけあります。
白黒作品であるけど、そんなことを微塵にも
感じさせないほどの完成度でつい
「ワイルダーありがとう。」
と感謝の言葉を言いたくなってしまう作品です。
私の一番好きなシーンは、最後のアパートに
向かってマクレーンが走り、そして何気に相手の
気持ちが分かっているのにトランプを続けるシーン。
なんか無性に幸せを感じてしまいます。
[amazonjs asin="B0067XIJGG" locale="JP" title="アパートの鍵貸します Blu-ray"]